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「コインロッカー・ベイビーズ」 村上龍

この作品、オールタイムベストの一番てっぺんにくる。
小説としても素晴らしいと思うし、影響を受けたという点でも間違いなく1等賞だ。
読んだのは19歳のとき。
その頃、なぜか、小説は1日で読むものと勝手にルールを決めていた。
夜になるとベッドか机のイスにすわり一晩かけて読む。
クッションか枕を背中にあて、傍らにはアイスオーレとタバコを置いてね。
そこそこ長い小説でも6時間ほどあれば読めた。
基本的に読むのは早い方。
でも、この「コインロッカー・ベイビーズ」だけは全部読めなかった。
上巻(文庫本)を読み終えたところで、外は完全に白んできていて頭も限界がきた。
文字を認識する力の限界だね。
それでも、眠りたくはなかった。疲れてはいたけれど睡魔にはおそわれず、何よりもこの小説の世界から出るのがイヤだった。
ただ、冷静に考えると下巻をこのまま読み切れるわけもなく、結局はベッドに横たわった。
気分的には仮眠。
昼過ぎに起きてくるとかんたんなブランチをとって、再び読み始めた。
読み終わったのは夕方ぐらいかな。もっと遅かったかもしれない。とにかく丸一日、睡眠と栄養をとる以外は小説の世界にいた。


何がそんなに気に入った?


やっぱり最後の章かな。ラストに至るまでの徐々に盛り上がっていく高揚感。こちらまでが共犯者になったような気分させられる。はじめて読んだときは強烈な鳥肌がたった。頭が疲れていたせいもあるかもしれないけど、後にも先にも小説であれほどの鳥肌はない。


つまらない日常、満足できない現実がある。と仮定して・・・。
どうする?どうやってその状況を打開する。
タイムマシンに乗って過去に戻るか。努力して乗り越えるか。誰かに助けてもらうか。


破壊する。


なんて素敵な答えなんだ、と19歳のとき思った。

細胞が沸騰するような興奮。
あまりに気に入ったので、当時持っていたストラトキャスターのヘッドに元あったロゴを消し「DATURA」とプリントした。


何のために人間は道具を作り出してきたかわかるか?石を積み上げてきたかわかるか?壊すためだ、破壊の衝動が物を作らせる、壊すのは、選ばれた奴だ、お前なんかそうだぞキク、権利がある、壊したくなったら呪文だ、ダチュラ、片っぱしから人を殺したくなったら、ダチュラだ。
(「コインロッカー・ベイビーズ」村上龍 より)


著者: 村上 龍
タイトル: コインロッカー・ベイビーズ (上)
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映画化されたら、キク役は町田康、ハシ役は大江慎也だと絶対信じてた。もちろん当時の話。「爆裂都市」だね。ただBGMはパンクよりフリーキーなジャズの方が合ったりするのかな。

「風の歌を聴け」 村上春樹

この本、4冊買ってる。
最初は大学に入ったばかりのときに文庫本を、2冊目はそれから3年ほど経ったとき友人に貸してそのままあげてしまったので再び購入。
3冊目は近所の古本屋で単行本の初版が売っていたので衝動買い。
で、4冊目は最近、文庫本の表紙が単行本バージョンに変わったので、また買った。
ということで現在、3冊持ってる。


はじまりは映画だった。
高校生のとき、たぶん土曜日だったと思う。
野球のデーゲームが雨で中止になり、それの代替。
このあたりの記憶は曖昧。勘違いかもしれない。
監督は大森一樹。
キャストは「僕」が小林薫、「鼠」がヒカシューの巻上公一、「四本指の女」は真行寺君枝、「ジェイ」は坂田明。脇役には「DJ」が阿藤海、回想シーンの「三番目の女の子」が室井滋、他には古尾谷雅人なんかが出演してる。
世界観が気に入った。
流れている時間はとてもゆるやかだし、神戸という舞台も身近に感じられた。
そして、しばらくして小説を読んだ。


「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないのと同じようにね。」
(「風の歌を聴け」村上春樹 より)


冒頭から完璧にノックアウト。
完全にはまってしまった。
何度も読んだ。
文章の成り立ちや比喩のつかいかた、そんなレトリック的な読み方で分析もしてみた。
影響を受けたと指摘されているヴオネガット、ブローティガンやフィツジェラルド、カポーティなんかの小説を読みあさった。
ひとつのものから枝葉が分かれていって、広く、そして深く、刺激をもとめる。
当時はそんなことをしていた。
常に感性のアンテナを立てながらね。


この本を貸した友人から「鼠」に似てると言われたことがある。
どこが?
たぶん、ふらふらとしているように見えたんだろう。
それは今でもあまり変わらないかも。


著者: 村上 春樹
タイトル: 風の歌を聴け

「みんな十九歳だった」 山川健一

Around the Corner

これ、昔つけてた日記の名前。
20代の前半ね。
刺激に飢えてた。
毎日、毎日、新しい刺激を求めてた。
文学・音楽・映画・・・。
琴線にふれるものはすべて飲み込んできた。
赤茶けた大学ノートにはそんなものが詰まっている。

日記をつけるきっかけは山川健一。
タイトルは清志朗のソロアルバムの曲から。

考えてた あの曲がり角のところで・・・

そう、あの頃、そんなふうに思っていたんだよな。
ここが曲がり角で、どうすればいいかなんて。
立ち止まってる自分をイメージしてた。

うまく道を曲がれたかどうか、思ってた道とちがうかどうか。
そんなことは分からない。
過ぎ去ったことだし、たとえ戻れたとしても、そんなに変わらない状況を選んでるような気がする。
それに、そんなことより今現在がどうか、だよな。

原点回帰?
少しちがうかも。
タイトルは同じだけれど、微妙にニュアンスは異なってる。
当たり前だけど、あの頃とは何かがちがってる。
ただ、言葉で世界をつくるためのメモだってことはいっしょだ。

つまらない大人になってない?

ノートに批評や創作の種を綴ってたあの頃の自分にそう尋ねられたら返答に困るだろうな。
なんて返事するんだろう。

また曲がり角に来ちゃったよ。
で、どうしようか考えてる。
ぜんぜん成長してないよ。
でも、やるしかないんだよね。自分で動くしか。
一度っきりの人生だし、後悔はしたくないからさ。
ごめん、ホント、成長してない。
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